土佐市新居の観光交流施設「南風(まぜ)」その後と土佐市の思惑~指定管理者制度の専門家が語る|東京・コンサル
2024/02/07
4月からの土佐市新居の観光交流施設「南風(まぜ)」
土佐市新居の観光交流施設「南風(まぜ)」の運営が、4月から土佐市の直営に戻されることが報道されている。
土佐市の「南風」直営へ NPO指定管理が満了 4月から「当面の間」 NPO「納得できない」
指定管理者から直営へなぜ戻すのか。
指定管理者制度から、直営に戻す動きは、近年、地方の公共施設で増加する傾向にある。
大きな理由の一つは、そもそも指定管理者制度を導入しても予算的なメリットが見込めず、手を挙げてくれる民間事業者がいないということである。
要するに、やむに已まれず直営へ戻すしか道がないのである。
しかし、指定管理者から直営に戻す大きな問題としては、指定管理期間が長ければ、長いほど、当該施設の運営ノウハウが行政から失われているということである。
では、どのようにして、運営を継続するのか。
一つの方策としては、現指定管理者に利益分も見込んだ予算で、随意契約を行い、運営を丸投げする方法が一つ。
二つ目の方策は、当該施設の必要最低限の機能を残し、指定管理者時代に行われれていたサービスをすべてそぎ落として、入札、もしくは現指定管理者と随意契約。
三つ目は、一旦直営に戻したうえで、タイミングを見て、当該施設を休館・廃止。
二つ目の方策を取ると、自ずと利用率の横ばい、もしくは低下が発生するので、近い将来、三つ目の方策を取りやすい。
町営の集会所や生涯学習センターと言われる施設は、利用率が低下すると、特定の利用者のみがヘビーローテーションすることとなり、公平・平等の観点から考えると、一部の住民に公金が投入されることになるという言い訳の下、比較的、休館・廃止をしやすい。
土佐市新居の観光交流施設「南風(まぜ)」の場合は
まず、行政の職員の大まかな特性として、「言われる」のが嫌いという特性がある。
土佐市新居の観光交流施設「南風(まぜ)」の件においては、世間的に注目を集め、議会→市長→部長・局長→課長→係長→主査→担当主事の順に言われてしまうのである。
では、言われないようにするにはどうすればいいのかと考えたのであろうと容易に想像がつく。
出てきた答えとしては、安直に「指定管理から直営にしてハンドルを取り戻せばいいんじゃね」ということである。
そうすれば、1Fと2Fを切り離して、1Fの運営を現指定管理者であるNPO法人に随意契約を行い、2Fはドラゴン広場(土佐市高岡町甲2116-3)に入店している飲食店や社会福祉協議会などの協力による福祉喫茶に運営を委託することできる。
この方法であれば、NPO法人はそのまま1Fは運営ができ、2Fも市が直接、委託しているので、NPO法人からとやかく言われることも、2Fの委託先の事業者も委託業務なので、創意工夫の余地はなく、委託された業務のみを行うこととなるので、文句の言いようもない。
これで、youtubeにアップされることも、世間の注目を集めることも、議会でとやかく言われることも、地元の大立者からとやかく言われることも、上司からとやかく言われることもなくなるのである。
あとは、波風立てずに、世間から忘れ去られるのを待ち、タイミングを見て、NPO法人と2Fの委託事業者で共同事業体を結成してもらい、指定管理者制度に戻せば、土佐市的には八方丸く収まるのである。
指定管理者制度とは
指定管理者制度とは、時の小泉政権により推し進められた「小さな政府」構想に基づき、地方自治法第244条の2の一部改正で2003年6月13日発布、同年9月2日に施行された制度である。
それまでは、公の施設の管理運営については、地方公共団体もしくは当該地方公共団体が設立した財団等しか管理運営を受託できなったが、本制度の施行により、「法人もしくは個人それらで構成される団体(以下、共同事業体等という)」に施設の管理を行わせることができるようになった。
指定管理者制度では、公の施設を管理するにあたり、地方公共団体と共同事業体等との受委託の関係ではなく、行政処分による執行代行となる。
詳細はこちら(専門家が教える指定管理者制度【東京・コンサル】)をご覧ください。
指定管理者制度は行政にとっての「打ち出の小槌」ではない
近年、地方公共団体において、あえて経営不振というが、経営不振の公の施設に指定管理者制度を導入すれば、利用者が増加して、収益が上がって、公費投入が削減できて、評判もうなぎ上りになる。と思っている節がある。
しかし、そもそもの指定管理者制度の思想には、「餅は餅屋」という思想がある。
これは、法人や個人が得意分野を活かして、施設の運営が行えるように共同事業体の設立が認められており、共同事業体として指定管理者に立候補することが認められている。
すなわち、利用者を増加させたいのであれば、施設のPRやブランティングを得意とする法人や個人、収益を上げたいのであれば、経営や営業が得な法人や個人、経費削減であれば、たとえば施設管理が得意で施設のランニングコストが削減できる法人や個人の組み合わせによる共同事業体を指定管理者として指定するのが望ましい。
こういったベストJV(ジョイントベンチャー)が結成されない状態においての指定管理者は、当然、地方公共団体が望む、指定管理者の効果を発揮しえないのである。
「餅は餅屋」という制度設計に基づく指定管理者制度において、「餅屋」ではない事業者を指定管理者にしておいて、美味しい餅を作れという方が無理な相談なのである。
指定管理者に立候補する事業者の方も、提案段階では、「できない」ことも「できる」かのように提案して、指定管理者に選ばれてから、うやむやにするような事例も多々見受けられるが、これを防ぐために、第三者評価制度なども導入されている。
直営であれば問題は解決?
これは、地方公共団体にしても地方公共団体が設立した法人(財団法人等)であって話は同じで、「餅屋」の真似事はできても「餅屋」ではなく、結局、「餅屋」にその全部もしくは一部の餅の製造を委託することになる。
しかも、直営施設であれば、当然、市の職員が常駐する必要があり、その分の人件費は明らかに無駄な公費投入と言わざるを得ない。財団法人を指定管理者に指定した場合も、結局、構図はあまり変わらず、財団が中間マージンにしかなっていない場合も多い。
結局、直営でも行政が望む未来の実現は難しいと言わざるを得ない。だからこそ生まれたの指定管理者制度なのである。
指定管理者制度の正しい理解こそが問題解決の早道
地方公共団体の職員も指定管理者に手を挙げる事業者も、もう一度、指定管理者制度に対する理解を正しくしてもらうことこそが問題解決の早道ではないだろうか。
指定管理者制度は打ち出の小槌ではないし、対象の公の施設が抱える問題を解決しうるベストJVが指定管理者に手を挙げてくれるような制度設計をして、指定管理者となりうる民間事業者にもメリットのある形で公募できるのが望ましい形ではないだろうか。
安直な指定管理の導入や指定管理者への立候補を抑制し、正しい形での指定管理者制度がその機能を発揮できるのである。
最後に、指定管理者と地方公共団体の所管課は上下関係ではなく、並列であり、指定管理者として指定された者は、一行政庁としてのふるまいを求められることを忘れてはならない。
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